「歯の話と腎臓が、何か関係あるんですか?」
そう聞かれることがあります。
関係あるんです、これが。
歯周病と腎臓病の間には、近年の研究で意味のある関連が指摘されるようになっています。腎臓病を気にしている飼い主さんに、ぜひ知っておいてほしい話です。
このコラムでわかること
猫の歯周病がどれだけ多いか / 歯周病と腎臓病の関係 / 自宅でできる口腔ケアの始め方 / いつ歯科検診を受けるべきか
1. 猫の歯周病は「よくある病気」
3歳までに約70%の猫で歯周病の徴候がみられるとする推定が広く引用されています(診断基準や調査方法により数値には幅があります)。
歯周病は「歯が汚い」という見た目の問題ではなく、歯肉・歯槽骨・歯根膜などの歯を支える組織が炎症・破壊される病気です。
問題は、猫が痛みを表に出しにくいことです。
歯周病がかなり進んでいても「ご飯を食べているから大丈夫」と見逃されることが多く、「痛くて食べにくそう」という段階になって初めて気づくことが珍しくありません。

2. 歯周病と腎臓病の関係──「菌血症」という経路
歯周病のある口腔内には、大量の細菌が繁殖しています。
歯肉に炎症があると、そこから細菌が血流に乗って全身を巡る「菌血症」が起きやすくなります。
腎臓は血液を大量に濾過する臓器のため、血流を巡る細菌・毒素の影響を受けやすい場所でもあります。慢性的な菌血症が腎臓の慢性炎症につながり、腎機能低下を促進する可能性が研究で示唆されています。ただし、歯周病と腎臓病の間の因果関係(歯周病を治すと腎臓病が防げるか)はまだ研究途上です。
歯周病のある猫では腎臓病の発症率・進行リスクが高いというデータが報告されており、デンタルケアを腎臓病管理の一環として捉える考え方が広がっています。
「歯は歯科の話、腎臓は内科の話」と切り離して考えるのではなく、体全体としてつながっているという視点が大切です。
3. 歯周病が腎臓に影響するもう一つの経路──食欲低下
歯周病が進むと、食べるときに痛みが生じます。
「食欲が落ちた」「硬いものを食べにくそう」「食べるのに時間がかかるようになった」という変化が出てきます。
腎臓病の管理では「食べ続けること」が非常に重要です。
食欲低下は体重減少・筋肉量の低下・栄養不足につながり、腎臓病の進行を早めます。歯の痛みが原因で食欲が落ちているなら、まず歯を治すことが腎臓を守ることにつながります。
4. 自宅でできる口腔ケア
理想は毎日の歯磨きですが、嫌がる猫に無理やりやると逆効果になることもあります。段階的に慣れさせていくことが大切です。
| ステップ | 内容 | 目安期間 |
|---|---|---|
| Step 1 | 口の周りを触ることに慣れさせる。唇をめくって歯茎を触る練習 | 1〜2週間 |
| Step 2 | 指に歯磨きペーストをつけて歯茎をなでる | 1〜2週間 |
| Step 3 | 指サックブラシや歯ブラシを使って歯面を磨く | 慣れたら毎日 |
歯磨きペーストは猫用(飲み込んでも安全なもの)を使用してください。
人間用のフッ素入りは猫には使えません。
歯磨きが難しい場合は、デンタルガム・デンタルウォーター(飲み水に混ぜるタイプ)・デンタルスプレーなども補助的に有効です。ただし歯磨きの代替にはなりません。

5. 歯科検診のタイミング
自宅での口腔ケアに加えて、定期的な歯科検診を受けることが重要です。
こんなサインがあったら早めに受診を
- 口臭がきつくなってきた
- 歯茎が赤い・腫れている・出血がある
- 食欲が落ちた・硬いものを嫌がる
- 口を気にして前足で顔をこする
- 歯が変色している・ぐらついている
歯周病の治療には全身麻酔が必要になることが多いため、「麻酔が怖い」と受診をためらう飼い主さんは多いです。
ただし、腎臓病が進んだ状態での麻酔は確かにリスクが上がります。腎臓病の初期のうちに歯の状態を整えておく方が、リスクを下げることができます。
6. よくある質問
Q. 腎臓病があっても歯の治療(麻酔)はできますか?
A. ステージや全身状態によって判断が変わります。Stage 1〜2で全身状態が安定していれば麻酔が可能なケースが多いです。Stage 3以降は術前の詳細な評価が必要です。「腎臓病があるから麻酔は無理」とは限りませんが、担当医師に腎臓の状態を伝えた上で判断してもらうことが重要です。
Q. 歯周病を治したら腎臓病が良くなりますか?
A. 歯周病治療でCKDが治るわけではありませんが、口腔内の炎症を減らすことは全身の負担軽減につながると考えられています。ただし、歯周病治療がCKDの進行を直接抑えるかどうかは、まだ十分な研究がありません。食欲改善による栄養状態の向上が期待できる点は大きなメリットです。
Q. デンタルケアで腎臓病は予防できますか?
A. 腎臓病を「完全に予防」することは難しいですが、慢性炎症を減らすことはリスク低減につながります。腎臓を守る生活習慣のひとつとして、デンタルケアを継続することをお勧めします。
まとめ
口の中の健康と腎臓の健康は、つながっています。歯周病を「歯だけの問題」と思わず、腎臓を守る習慣の一環として口腔ケアを取り入れてみてください。
特に腎臓病の猫を飼っている方は、定期的な歯科検診を腎臓健診と組み合わせて受けることをお勧めします。
ノア動物病院(山梨/東京・八王子)
猫ちゃんの慢性腎臓病について詳しく知る
ノア動物病院では、腎臓病と付き合っていくだけではなく「ならせない」ケアに力を入れています。
まずは猫ちゃんの慢性腎臓病について詳しくご説明した下記のページをご覧ください。