「腎臓病は治らない」──そう聞いて、治療に消極的になってしまう飼い主さんは少なくありません。
でも正確には、「治らないけれど、進行を大幅に遅らせることができる病気」です。
適切な薬・食事・補液・管理プログラムを組み合わせることで、猫の腎臓が「今ある機能」をできるだけ長く保てるようにする──それが腎臓病治療の本質です。
このページでは、腎臓病の治療で使われる薬・点滴・ノア動物病院の管理プログラムについて、ステージ別に詳しく解説します。
このページでわかること
腎臓病治療の5つの柱 / よく使われる薬の種類と目的 / 皮下点滴の始め方・自宅でのやり方 / ステージ別の治療選択(ステージ別治療方針) / ノア動物病院のグレード別ケアプログラム
1. 腎臓病の治療にはどんな方法がある?治療の「5つの柱」
腎臓病の治療は、一つの薬で解決するものではありません。以下の5つのアプローチを、その子のステージと状態に合わせて組み合わせます。
| 順番 | 治療の柱 | 目的・ポイント | 主なステージ |
|---|---|---|---|
| ① | 食事療法 (リン・タンパク管理) |
リン制限は最もエビデンスの強い介入。進行速度を下げる最重要手段。詳しくは「食事・療法食ガイド」ページをご覧ください。 | 全ステージ |
| ② | 水分管理・皮下補液 | 脱水は腎臓への血流を低下させ、急速に悪化させる。十分な水分確保が進行抑制の基盤 | 全ステージ(補液はStage 3〜) |
| ③ | 血圧管理 (降圧薬) |
高血圧は腎臓・目・心臓を同時に傷める。SBP 160以上で薬物介入が必要 | Stage 2〜 |
| ④ | 薬物療法 (リン吸着・ARB・貧血治療など) |
食事だけで対処できない問題に、ステージに応じた薬を組み合わせる | Stage 2〜4 |
| ⑤ | AIM(エーアイエム)治療 | 2026年承認申請予定。腎臓の自然修復メカニズムに働きかける新しい治療アプローチ。詳しくは「AIM(エーアイエム)治療ガイド」ページをご覧ください。 | 承認後に適応判断 |
③食事・療法食ガイド
猫の腎臓病における食事管理の重要性と療法食の選び方を解説。「食べてくれない」悩みへの対処法、ノア動物病院のテイスティングBAR、AIM活性化療法食、ステージ別の食事方針まで、続けるための工夫をまとめました。
④AIM(エーアイエム)完全ガイド
猫の腎臓病治療に期待されるAIM(エーアイエム)注射製剤の仕組み・治験・2026年承認申請の現状を正確に解説。市販のAIMフード・サプリとの根本的な違いと、今この子にできることを獣医師がまとめました。
2. 猫の腎臓病治療ではどんな薬を使うの?——目的別に解説
「薬をたくさん飲ませるのはかわいそう」と思う飼い主さんもいます。でも、それぞれの薬には明確な目的があります。なぜその薬が必要なのかを知ることが、治療を続けるモチベーションにつながります。
① リン吸着剤——腎臓病を悪化させる「リン」を腸で吸収させない
リンは腎臓病の進行を加速させる最重要因子のひとつです。療法食でリンを減らすことが基本ですが、それでも血中リンが目標値に届かない場合、食事と一緒にリン吸着剤を与えます。
| 薬剤名 | 特徴 | 使い方のポイント |
|---|---|---|
| 炭酸ランタン | 吸着力が強く少量で効果的 | 食事に混ぜて与える。粉砕しやすくウェットフードへの混合に向いている |
| 炭酸カルシウム | 古くからある定番薬。コストが低い | 高カルシウム血症に注意が必要。血中カルシウムもあわせてモニタリング |
| セベラマー塩酸塩 | カルシウム非含有で高カルシウム血症リスクが低い | 錠剤が大きいため、砕いてフードに混ぜるのが一般的 |
リン管理の目標値:Stage 2〜3では6.0 mg/dL未満が目安です(IRIS(アイリス)準拠)。
② RAAS抑制薬(ARB・ACE阻害薬)——タンパク尿を抑えて腎臓を守る
UPC(尿タンパク比)が0.4を超えた場合、タンパク尿そのものが腎臓をさらに傷める「悪循環」を引き起こします。このサイクルを断ち切るのがRAAS抑制薬です。
| 薬剤名 | 分類 | 使い方のポイント |
|---|---|---|
| テルミサルタン | ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬) | 猫での使用実績が豊富。液剤があり投与しやすい。UPC >0.4 で第一選択 |
| ベナゼプリル | ACE阻害薬 | テルミサルタンと同様の適応。院内の状況に応じて使い分け |
③ 降圧薬——高血圧から腎臓・目・心臓を守る
猫の慢性腎臓病では高血圧が非常に多く見られます。SBP(収縮期血圧)が160 mmHg以上で持続する場合、失明・脳卒中・腎悪化のリスクが高まるため、薬で血圧を下げます。
| 薬剤名 | 分類 | 使い方のポイント |
|---|---|---|
| アムロジピン | Ca拮抗薬(第一選択) | 猫の高血圧治療における第一選択薬。少量から開始し効果をモニタリング。目標SBP 140 mmHg未満 |
※「目が急に見えなくなった」は高血圧の緊急サインです
網膜剥離・眼底出血は高血圧によって引き起こされ、放置すると永続的な失明につながります。「急に物にぶつかるようになった」「瞳孔が開いたまま」などの変化があればすぐにご来院ください。ノア動物病院では即日対応できる体制を整えています。
④ 貧血治療——造血ホルモンの低下を補う
腎臓はエリスロポエチンという造血ホルモンを産生しています。腎機能が低下するとこのホルモンが不足し、赤血球が作られにくくなります(腎性貧血)。
Hct(ヘマトクリット値)が20〜25%以下になり、元気のなさ・食欲低下が顕著な場合は造血刺激薬を使用します。
| 薬剤名 | 分類 | ポイント |
|---|---|---|
| ダルベポエチン アルファ | ESA(造血刺激薬) | 開始時は週1回程度から始め、目標値に達したら2〜4週間隔に調整します。貧血改善によりQOL・食欲が大きく回復するケースが多い。鉄欠乏があれば鉄剤を併用 |
⑤ 制吐薬・食欲増進薬——「食べられる状態」を守る
ステージ3〜4では尿毒症による吐き気・食欲低下が深刻になります。「食べられること」はQOLを保つ最も直接的な手段であり、症状を薬でコントロールすることは積極的な治療の一部です。
| 薬剤名 | 目的 | ポイント |
|---|---|---|
| マロピタント | 制吐薬 | 嘔吐・吐き気の緩和。内服薬と注射薬がある。食欲改善にも間接的に効果 |
| ミルタザピン | 食欲増進薬 | 経皮吸収型(耳の内側に塗る)もあり、投薬が難しい猫でも使いやすい。食欲低下・体重減少に有効 |
⑥ 腸内吸着剤(活性炭製剤)——腸で尿毒素を吸着する
尿毒素(インドキシル硫酸・p-クレジル硫酸など)は腸内でも産生されます。活性炭製剤を食事に混ぜることで、腸からの吸収を抑え血中尿毒素濃度を下げる効果が期待できます。
- コバルジン(活性炭):フードへの混合が可能。Stage 3〜4で補助的に使用
⑦ カリウム補充——筋力低下・頸部腹屈を防ぐ
腎臓病が進むと低カリウム血症が起きやすくなります。カリウムが低下すると「首が下がってしまう(頸部腹屈)」「歩きにくそう」「筋肉がやせてきた」という症状が出ます。
- グルコン酸カリウム(シロップ):フードに混ぜて補充。血液検査でK値が3.5 mEq/L未満の場合に使用
重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム)について
腎臓病が進むと代謝性アシドーシス(血液が酸性に傾く状態)が起きます。重炭酸低下は筋肉の分解促進・腎機能低下の加速と関連することがわかっており、重篤な場合は重炭酸補充を行うことがあります。担当獣医師の判断で対応します。
3. 皮下点滴は自宅でできる?やり方は?
腎臓病が進むと、飲水量だけでは水分補給が追いつかなくなります。脱水状態になると腎臓への血流が低下し、急激に状態が悪化します。
そこで活用されるのが「皮下補液(皮下点滴)」です。皮膚の下に生理食塩水や輸液を注射し、体内の水分量を補います。
自宅での皮下補液は、多くの飼い主さんができます
「注射なんて怖い」と思う方がほとんどです。でもノア動物病院のライフサポートプログラムでは、担当看護師が実際に手を動かしながら丁寧にレクチャーします。自宅補液を始めた飼い主さんの多くが「思ったより怖くなかった」「猫が楽そうになった」とおっしゃいます。
皮下補液の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開始の目安 | 主にStage 3以降。「脱水が続く」「食欲低下が著しい」「クレアチニンが急上昇した」などのタイミングで担当医が提案します |
| 頻度 | 週1〜3回から始め、状態に応じて調整。Stage 4では毎日〜隔日になることも |
| 1回の量 | 一般的に50〜150 mL程度(体重・状態により異なります) |
| 場所 | 肩甲骨あたりの背中の皮膚をつまんで注射。猫は比較的おとなしく受けられることが多い |
| 使用する輸液 | 乳酸リンゲル液・酢酸リンゲル液などを使用。担当医が処方します |
| 費用 | 輸液セットの費用は病院によって異なります。詳しくはご来院時にご確認ください |
自宅補液の手順(概要)
ノア動物病院では初回指導を院内で行います。以下は一般的な流れです。
- ① 輸液バッグ・針・ラインをセットする
- ② 猫をリラックスした姿勢に落ち着かせる(フードを与えながら行うと楽になることも)
- ③ 肩甲骨付近の皮膚をつまみ、素早く針を刺す
- ④ 規定量が入ったら針を抜き、軽く圧迫する
- ⑤ 刺した部分に液体が溜まって「コブ」ができるが、1〜2時間で吸収される(正常)
※ 自宅補液の実施は必ず獣医師の指示のもとで行ってください。量・頻度・液の種類は必ず処方に従ってください。
4. IRISステージ別 治療選択の考え方
ノア動物病院では、IRISのCKDステージ分類を基本とし、高血圧・蛋白尿についてはACVIMコンセンサスも参照したステージ別治療方針で、ステージに応じた治療を組み立てています。
全ステージ共通:毎回必ず評価する項目
| 検査・評価項目 | 検査・評価項目 |
|---|---|
| 体重・BCS(ボディコンディションスコア) | BUN・Cre・SDMA(腎機能指標) |
| SBP(血圧) | P(リン)・K(カリウム) |
| UPC(尿タンパク比)・尿比重 | 食欲・嘔吐回数・水分摂取状況 |
| CBC(血球計算:Stage 2以降) | 腎エコー(形態評価) |
Stage 1 の治療方針
| 状態 | 対応 | 備考 |
|---|---|---|
| P 正常 | 通常食でも可 | 高リン食は回避 |
| P 軽度上昇 | 早期腎食への移行を検討 | テイスティングBARで食べられるフードを確認 |
| UPC > 0.4 | テルミサルタン開始 | 1〜3か月ごとにUPC再検査 |
| SBP ≥ 160 | アムロジピン開始 | 目標SBP 140 mmHg未満 |
Stage 2 の治療方針
目標値:リン 6.0 mg/dL未満 / UPC < 0.4 / SBP < 150 mmHg / 体重維持
| 状態 | 対応 | 備考 |
|---|---|---|
| P ≥ 6.0 | 腎臓療法食+リン吸着剤 | 食事で下がりきらない場合に吸着剤を追加 |
| UPC > 0.4 | テルミサルタン | 蛋白尿を下げることで腎臓への二次ダメージを抑制 |
| SBP ≥ 160 | アムロジピン | 降圧後もSBPが不安定な場合は追加薬剤を検討 |
| K < 3.5 | カリウム補充 | グルコン酸カリウムをフードに混合 |
Stage 3 の治療方針
目標値:リン 6.0 mg/dL未満 / 脱水回避 / 食欲維持 / 貧血早期対応
| 状態 | 対応 | 備考 |
|---|---|---|
| 高リン血症 | リン吸着剤の増量 | 6.0 mg/dL未満を目標に調整 |
| UPC > 0.4 | テルミサルタン継続・増量 | 蛋白尿管理の継続が特に重要 |
| SBP ≥ 160 | アムロジピン継続・調整 | 不安定な場合は追加薬剤も検討 |
| PCV < 25%(貧血) | ダルベポエチン開始 | QOL改善効果が大きい。鉄欠乏があれば鉄剤を併用 |
| 嘔吐・食欲低下 | マロピタント・ミルタザピン | 「食べられている」ことを維持することが最優先 |
| 脱水 | 皮下補液導入(週1〜3回) | 在宅補液の指導を開始する段階。ノア動物病院ライフサポートプログラムで対応 |
Stage 4 の治療方針
目標:QOL最大化 / 食べることを守る / 尿毒症コントロール
| 問題 | 対応 | 備考 |
|---|---|---|
| 尿毒症 | 積極的な皮下補液(毎日〜隔日) | 在宅補液が生活の質を支える柱になる |
| 高リン血症 | リン吸着剤の強化 | コバルジン(活性炭)の追加も検討 |
| 重度の貧血 | ダルベポエチン継続、必要に応じて輸血 | 輸血は院内でのみ実施可能 |
| 食欲低下 | ミルタザピン(経皮吸収型も可) | 「食べられるものを食べられるだけ」を最優先 |
| 嘔吐 | マロピタント | 投薬が難しい場合は注射薬も選択肢 |
5. ノア動物病院ではどんな管理プログラムがある?
腎臓病は長い付き合いになります。だからノア動物病院は「押しつけない医療設計」を採用しています。
「どこまで治療するか」は飼い主さんが選べる。それが継続率を高め、その子との時間を守ることにつながると考えています。
| プログラム名 | 対象ステージ | 主な内容 |
|---|---|---|
| ライトケア | Stage 0〜1 | 年2回腎臓重点健診・食事アドバイス・水分管理・LINEフォロー |
| スタンダードケア | Stage 2 | 月1回 血液・尿モニタ/腎臓療法食管理/尿比重・pH・血圧管理 |
| アドバンスケア | Stage 3 | 月2回モニタ/点滴・投薬設計/リン吸着剤・胃腸管理/専任看護師フォロー(予約制) |
| ライフサポート | Stage 4 | 在宅皮下点滴指導/食欲・QOL管理/緊急優先対応/生活QOL設計 |
※ 各プログラムの費用・詳細内容はご来院時にご説明します。上記は概要です。
「腎臓健康パスポート」でデータを一元管理
ノア動物病院では、希望される飼い主さんに「腎臓健康パスポート」を発行しています。検査結果の時系列グラフ・腎臓年齢・次回検査日の通知など、その子の腎臓の「歴史」を一冊で管理できます。
6. よくある質問
薬をたくさん与えるのは猫への負担になりませんか?
皮下点滴は自宅でできますか?怖くてできるか不安です。
療法食だけで薬は必要ないですか?
どの薬がいくらかかるか事前に知りたいです。
薬を飲ませるのが難しいです。コツはありますか?
7. まとめ
腎臓病の治療は「薬を飲む」だけではありません。食事・水分・血圧・薬物療法・補液──これらを組み合わせて初めて「進行を抑える」ことができます。
ノア動物病院では、IRIS(アイリス)ガイドラインに基づいたステージ別治療方針と、飼い主さんが自分で選べるグレード別プログラムで、その子にとって最適な管理を一緒に続けていきます。
ノア動物病院(山梨/東京・八王子)
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