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猫の皮下点滴(皮下補液)|自宅での始め方・タイミング・やり方を獣医師が解説

猫の皮下点滴(皮下補液)|自宅での始め方・タイミング・やり方を獣医師が解説

「自宅で点滴なんて、私にできるわけがない」

皮下補液を提案されたとき、そう思う飼い主さんは多いです。
注射と聞いただけで不安になるのは当然のことです。

ただ、実際に始めてみた飼い主さんの多くが「思ったより怖くなかった」「猫が明らかに楽そうになった」とおっしゃいます。
最初の一歩が最も高いハードルで、それを越えると日常になります。

このコラムでは、皮下補液の目的・始めるタイミング・自宅での手順・よくある不安について、できるだけ具体的に解説します。

このコラムでわかること

皮下補液とは何か・何のためにするのか / 開始するタイミング / 自宅補液の手順(概要) / よくある不安と対処法 / ノア動物病院での指導について

1. 皮下補液って何?──どうして腎臓病に必要なのか

皮下補液(皮下点滴)とは、皮膚の下に輸液(主に乳酸リンゲル液など)を注射して、体内の水分量を補う処置です。

腎臓病が進むと、腎臓が水分をうまく再吸収できなくなり、飲み水だけでは水分が追いつかない状態になります。
慢性的な脱水は腎臓への血流を低下させ、老廃物の排泄を妨げます。
これが腎機能をさらに悪化させる悪循環につながります。

皮下補液はこの悪循環を断ち切るための、腎臓病管理の重要な柱のひとつです。

静脈点滴とは何が違うの?

病院での静脈点滴は血管に直接入れるため即効性がありますが、毎日通院することは猫にも飼い主にも大きな負担です。皮下補液は皮膚の下に入れるため吸収は緩やかですが、自宅で行えるというメリットがあります。腎臓病の慢性的な水分補給には、継続できる皮下補液の方が適しています。

2. 自宅補液を始めるタイミング

「いつから始めるべきか」は担当医師が判断しますが、目安として以下のような状態が続いているときに提案されることが多いです。

状態・サイン補足
IRIS(アイリス)ステージ3・4以降脱水所見・飲水量・食欲・心疾患の有無などにより個別に判断されます
脱水が繰り返し確認される皮膚の弾力低下(テントサイン)・目の乾燥など
クレアチニン値が急上昇している脱水が引き金になっていることが多い
食欲低下が著しく、飲水量も減っている経口摂取だけでは補えない水分量になっている
通院の頻度を下げたい状態が安定していれば在宅補液に移行できる

「始めたくないから」「怖いから」という理由で先延ばしにしている間も、猫の腎臓は脱水にさらされています。タイミングは担当医師と相談しながら決めてください。

3. 自宅補液の基本情報

項目内容
頻度週1〜3回から始め、状態に応じて調整。Stage 4では毎日〜隔日になることも
1回の量目安は体重1kgあたり10〜20mLで、1回75〜150mL程度が一般的です(体重・脱水度・心疾患の有無により担当医師が指定します)
場所肩甲骨あたりの背中の皮膚をつまんで注射する
使用する輸液等張性バランス輸液(乳酸リンゲル液・酢酸リンゲル液など)を、電解質の状態に合わせて担当医師が選択・処方します
輸液後の「コブ」について注射した部位に液体が溜まってコブができるが、2〜8時間で吸収される。これは正常な反応

4. 自宅補液の手順(概要)

ノア動物病院では初回は院内で担当看護師が実際に手を動かしながら指導します。以下は一般的な流れです。

① 輸液セットの準備

輸液バッグ・点滴チューブ・注射針をセットします。針を刺す前に手を洗い、清潔な状態で行います。

② 猫をリラックスさせる

猫が安心して動かない姿勢に落ち着かせます。フードやおやつを与えながら行うと注意が分散して楽になることが多いです。お気に入りの場所・タオルの上でやると安心する猫もいます。

③ 皮膚をつまんで素早く針を刺す

肩甲骨付近の皮膚をつまみ上げ、できたテント状の空間に素早く針を刺します。「ゆっくり刺す」より「素早く」の方が猫が嫌がりにくいです。

④ 規定量が入ったら針を抜く

輸液が流れているのを確認しながら待ちます。規定量が入ったらクレンメを閉じ、針を素早く抜いて軽く圧迫します。

⑤ 後片付け

使用済みの針は病院で処分します。輸液バッグは冷蔵保存(次回使用まで)。処分方法は担当医師に確認してください。

※ 注意事項

自宅補液は必ず担当医師の指示のもとで行ってください。量・頻度・使用する輸液の種類は処方に従ってください。自己判断での変更はしないでください。

5. よくある不安と対処法

「針を刺すのが怖い。失敗したらどうしよう」

最初は怖くて当然です。
ノア動物病院では、いきなり自宅でやるのではなく、院内で何度か練習してから始めていただいています。慣れると5〜10分でできるようになる方がほとんどです。

「猫が暴れて刺せない」

猫が暴れる場合は、補液中に好物のフードやおやつを与える、毛布でゆるく包む(タオル保定)などが有効なことがあります。
それでも難しい場合は、担当看護師に相談してください。猫によって合う方法が違います。

「コブができて痛そう」

補液後に液体が皮膚の下に溜まってコブができるのは正常な反応です。
通常数時間(目安2〜8時間)で体内に吸収されます。重力で胸やお腹側に移動することもありますが心配ありません。ただし、赤い・熱い・痛がる・呼吸が苦しそうな場合はすぐにご連絡ください。

「毎日続けられるか不安」

最初は「週1〜2回」からのスタートが多いです。
毎日の補液が必要な段階になっても、多くの飼い主さんがルーティンとして続けています。「できなかった日があっても自分を責めないこと」も大切なことです。

6. よくある質問

Q. 皮下補液はいつまで続ければいいですか?

A. 猫の状態によります。脱水が落ち着き飲水量が回復した場合は頻度を下げることもあります。逆にStage 4に進むにつれて頻度が増えることが多いです。状態に合わせて担当医師が調整します。

Q. 自宅補液は費用がかかりますか?

A. 輸液セット・針・輸液バッグの費用がかかります。費用については担当医師にご確認ください。病院での点滴と比較した場合のコストメリットも含めてご説明します。

Q. 旅行や外出のときはどうすれば?

A. 数日の外出なら補液を一時中断することはあります。ただし長期間の中断は状態悪化のリスクがあるため、事前に担当医師に相談してください。ペットシッターや動物病院への預け入れと組み合わせる方法もあります。

まとめ

「自宅で点滴なんて無理」と思っていた飼い主さんが、始めてみると「これがあの子の安定に直結している」と感じるようになる。皮下補液にはそういう側面があります。

始める前の不安は自然なことです。
ただ、「怖いから先延ばし」にしている間も、猫の腎臓は脱水にさらされています。一度担当医師に相談して、見通しを聞いてみてください。

ノア動物病院のライフサポートプログラムでは、担当看護師が自宅補液の指導を行っています。
「いつか必要になるかも」という段階からでも、ぜひご相談ください。

ノア動物病院(山梨/東京・八王子)

猫ちゃんの慢性腎臓病について詳しく知る

ノア動物病院では、腎臓病と付き合っていくだけではなく「ならせない」ケアに力を入れています。
まずは猫ちゃんの慢性腎臓病について詳しくご説明した下記のページをご覧ください。

\ もっと詳しく知る /

猫の慢性腎臓病 完全ガイド
AUTHOR

ノア動物病院 代表/獣医師

林 文明